下谷笑鬼の片眼

155cmの価値

投稿日: 2012年5月5日

自動車業界がデザインや内部容量、セフティパッドの数と競ったのは、隔世の感がある。いまや、燃料費を懸念するユーザーに向けて、エンジンシステムから燃料原資への攻防が凄まじい。信号待ちでのエンジンストップから、車体の軽量化。ガソリンから、ハイブリッド、そして完全EV。そして、ジワジワと、ディーゼル機種への拡充。ダウンサイジングを計って、従来以上のハイスペック詰め込んだコンパクトカーへの移行だ。
 
特に、日本の高齢社会構造に応じた小型車の見直しは、注目に値する。この技術は更に、ニューカマーを呼び込む軽自動車への技術注入に拍車をかける。

また一方、昨年春の三陸沖津波による車不足が、中古車市場を加熱させている。 

ユーザーの購入選択のポイントが広がり過ぎて、購入動機の丁寧な追跡調査が行われなければ、メーカーの開発チームも頭を抱えるだろう。

 

こういう中でメルセデスが発表したコンパクトカーへの積極的な姿勢が話題を呼んだ。

特にBクラスは、 全身新車と言うほどの変身である。 テレ東のWBSでの発表会では、日本支社の役員が こう誇らしげに説明した。「車高を下げたんですよ、6.5cm。これは、やはり、スポーティなデザインを若年層のドライバーの方々が好まれるからです。」???  

この説明に私は疑問を持った。いや、苦笑すらした。 カタログにある105mm、最低地上面高の数字を問題にしているのではない。 むしろ、車高を問題にしたいのだが、それに言及していないからだ。

これまで、我が国でAクラスやBクラスが伸び悩んだのには、別の背景があると思わなかったかだ。

 

日本には、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、富士重工業、三菱自工、スズキ、ダイハツなど、世界ブランドの乗用車亜メーカーがしのぎを削っている。中国の120社に比べれば少ないとは言え、欧米諸国から見れば、島国日本には多い割合である。山岳地帯の多い島国日本である。道路事情を考えれば、生活圏とする平野部が限られている国である。だからこそ、日本独特の軽自動車が 走り抜けている。
 
 
狭い道にマッチ箱と言われて来た住宅。そこへマイカーを所有するということは、駐車スペースが要る。例えば、多くの自動車メーカーを擁する濃尾平野では、住宅面積に余裕があるのか、二台の車庫を持つ住宅を多く見受ける。しかしながら、東京、大阪、京都などでは、自家用車を購入しても駐車場に頭を悩ますと言う。
 
マイカーでありながら、雨が降った日など、自宅まで手荷物を抱え、傘をさして帰るという、笑うに笑えない日常が身近なところで見受けられる。自宅よりも遠く離れた場所に停めてあるため、不用心で車中荒らしも盗難も防げない。不便だから手に入れたマイカーなのに、不便が解消されない。昔のように、愛車を洗車するという光景を目にしない。狭い島国で、住宅と空き地の二重を要するのだ。そこで、空に向かって住宅地を高層化する。マンションの林立である。しかし、ここにも駐車場の台数に限りがある。で、パーキングタワーを併設することになる。

 

  明和工業というメーカーをご存知だろうか。おそらく、日本のパーキングタワーのーカーリフトの多くを征しているのではないかと思われるメーカーである。
問題は、自動車メーカーの開発設計者とセールスの現場力の拮抗で、ステップワゴンタイプの車が家族サービスに適していると売る。渋滞時にも運転し易いと、ドライバーズシートの視野の高い車が売れる。ここに悩ましい問題が持ち上がる。
 
目的地へと走らせる車に問題はないが、帰宅時の収納に適しているかどうかで、購入動機が崩れることをメーカーは知っているのだろうか。つまり、マンションタワーに納車出来る車種に制限が生じるということだ。いかに広告がそそっても、いかに燃費が良かろうが、最後の関門で、車種変更となるのだ。
 

現に、私がダウンサイジングしようと、メルセデスBクラスに決めたのだが、買い留まってしまったのは、車高だったからだ。155cm以上あったBは、諦めざるえを得なかった。

そして、担当セールスマンに、この車高のために、どれだけの潜在購入意向の高いユーザーが 、断念したか、メーカーのトップは認識しているのだろうか、いや、していないだろうと、嘆いた。機会があれば、レポートを出して置いて欲しいとも。自社の車のスペックを比較することはあっても、購入断念の理由に、後数cmの車高が、障害になっているなどとは思ってもいないいだろうと。私は、明和工業の規格を悔やんだものだ。パーキングタワーを発注するクライアントは、一台でも多くを収納して採算に反映したいと思うはずで、メーカーの販売合戦とは全く異なる舞台ですれ違っているのだ。
先の、メルセデス日本側の役員が「スポーティ」だと言い放ったことも、実は、中流所得のオーナーの苛立ちに気づいていないズレではないか。「市場の不満の囁き」をデザインに反映してこそ、 売れていく理由が覗けるのではないか。

 

 http://response.jp/article/2012/04/25/173525.html 

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