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これまでとは違った理髪店ビジネスモデル

投稿日: 2012年7月17日

昨年から行くようになった僕の理髪店について話して見たい。

そこは、ビルの谷間にある二階建ての理髪店だが、経営形態に次代のビジネス フォーマットのヒントが見えたからだ。

 

済んでいるところからは、山手線で一駅あるいたところにそれはあった。試み に入ってみる動機は、「65歳以上1800円」という張り紙だった。洗髪顔剃 りもやってくれて、だ。年金生活者にとっては、町内の3500円の理髪店も、 駅前の1000円店も、不満だった。

それについては、後述するとして、見つけたこの店は、通常の理髪店と違って、 月曜日でも営業してくれていた。値段の割に、予想以上に、丁寧で上手い。肩 たたきの電気マッサージを当ててくれることはなかったが、髭を何ミリにする かまで、きちんと訊いてくれる。

 

何度か通う内に、驚くことがあった。順番で呼ばれる毎に、理髪師の顔が違う のだ。

つまり、何人もが勤めているのに、何人かが休んでいる。店内の掃除をする若 い人は、中国人留学生だろうか。きびきびと手際よく働くが、無口で、時折口 にするアクセントが、地方出身とは思えなかったからだ。専門学校に通う留学 生だと思われる。

 

この店の面白さに気づいたきっかけは、ほんのちょっとした会話からだった。

 

「店長はどなたなのですか?」軽い気持ちで訊ねた。

「いや、ここにはいませんよ」と苦笑いをする。

「ああ、お休みですか?」

「いや、店長はいないのす。家主さんが、ここを貸してくれているんですよ」

 

質問と推測を織り交ぜて行くと、こうだ。

 

まず、この二階建ての理髪店は、1階に4台、2階に4台の理髪台があるが、 什器類付きで、理髪師に貸し出されている。理髪師は、順番待ちの客を座らせる。

つまり、なんと、一人一人が店長である。

このため、客との会話にも、それぞれに味がある。

これが実に面白い。

 

鋏のアクションも、タオルの捌きかたも、シェービングクリームの塗り方も、 一人一人に、これまでの歴史が刻み込まれているように見える。

ここから、理髪店市場の攻防が見えてきた。

 

かつて住宅地で営んでいた店長も、息子が後継者にならないという悩みから、 やむを得ず廃業。

何棟もの公団住宅を客にしていた理髪店が、子供らが独立結婚して立ち去った。

数人を雇っていたが、客を1000円店に取られ、閑古鳥が鳴いた。

よしんば、若者が住む街で有りながら、彼らの足は美容院へ流れてしまった。

 

技術はあるのに、まだ働けるのに、雇用問題から解放されたい、資金繰りを忘 れたい。

地元の客では、気を遣う。独りなら、気が楽だ。

好きなときに休めれば、まだ まだやれる。

若い客層でないなら、構わない。

 

繁華街にある理髪店でも、店主が高齢化して、家族が引き継ぐには問題があり、 什器類を外して、店舗を売却するには、立地条件の価値が無駄になる。

ならば、居抜きで、人の貸し出そうと考えた。

生活情報が得られた銭湯も床屋も、生活様式の変化と世代交代が、。

新しいビジネスプラットフォームを生んでいく。

 

固定店を流動的に運営するケースは、新宿のバーで体験したことがある。

11時半になると、ラストオーダーが打診される。リストウオッチを見ても、

新宿駅の最終電車には、1時間弱はあるがと訝ったところ、

そのまま、居続けてもいいのですが、システムが変わりますという。

誘い出した友人が笑って説明するには、 11時半までは、日本人ママの経営で、それを越えると、女性も入れ替わって、 韓国人ママになるという。当然、店の名前も変わるという。

回り舞台に出演でもしているかのように、妙な時間が生まれる。

このシステムを教えたかったのだと友人は悦に入っていた。

 

器は有効に活用し、運営する人材は、適宜差し替える。

単科の開業医の難しさから、医療ビルを建設して、専門医がテナントと入居で 総合病院化することが進んでいる。大型医療器具への投資が、開業医のフォー マットを変えているのだ。

 

古くは、欧米での居抜きの不動産売買であり、

近くは、廃校となった小スペースのSOHO(small office home office)への 転用である。

 

まさに「量体裁衣」、「臨機応変」。

浮世風呂から銭湯へ。銭湯から床屋へ。

床屋から理髪店へ。 理髪店から1000ショップへ。そして、個人個店へ。

古くて新しい潮流ではないか。

 

話を理髪店に戻す。

 

かつては、三軒茶屋のマスターでなければと、社会人になっても神田から通い 続けたものである。

その後、会社が丸の内のビルになった時は、エリートの勤務するエリアだから、 センスもいいと、

仲通の店に通い、人伝で交通会館のバーバーショップが腕がいいということで 変わり、

40代を過ぎると、床屋は、やっぱり、ゆったりとした時間で世間話が聞ける ところがいいと、”

上野桜木の店になった。新しく建ったあそこのマンションは壁が薄くて困って いるだとか、御輿の担ぎ手が足りないとかで、どこかの祭友会の応援を頼んだ んだとか、通りの向こうの安い駐車場が空いただとかの話だ。

 

ところが、定年を迎え、講演回数も減ると、ヘアデザインなどどうでも良く、 さっぱり出来ればいいと、今度は1000円ショップにしてしまった。髭のミ リカットをなんとかしなくてはと、髭専用のトリマーを購入した。 1000円店には、4回通った。しかし、毎回、彼ら技量に酷い差があった。

 

大きな姿見の前で、シンプルな椅子に腰掛け、私服の出で立ちで踊るように鋏 を使われる。ちょっとした美容院気取りだ。美容師よりも数をこなすから腕が 上がるという評価もあるが、反面、1000円だから、上手いか下手かよりも 早いということで、不満を口にする客も少ない。それを価格面から許せるかど うかだが、専門学校出の登竜門と受け取れば、対面セールスマンにとっては、 短時間での身だしなみに便利なことだろう。ジモジーの店員が居るわけではな いので、店周りの世間話をしても応えられない。また、そんな呑気な時間も ないのだ。

 

この先駆者的チェーンストアとなったQBハウスは、駅構内からスーパーマー ケットに展開して、驚く間もなく、シンガポール、香港に進出し、今度は台湾 へ展開だ。300台湾ドルで、40店舗を目指すという。さらに、中国も計画に入ったようだ。 そういえば、東南アジアでは、路面で髪を切る風景を未だ見受けるので、その シンプルな客サービスに抵抗感は、なさそうだ。

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